理事長のコラム「本のある風景」

No.14 田代一茂・著「小さなほとけたちのなみだ」

伊万里市の田代一茂さんが亡くなって早2年が過ぎた。伊万里養護学校などで教壇に立ち、障害児(者)教育に携わって半世紀以上。教壇を降りてからも障害者授産施設「いまりの里」理事長として通所者と一緒に汗を流してきた人の著作。

田代さんの障害者を見つめるまなざしはいつも慈愛に満ちていた。田代さんとの思い出の一つ。何年か前、伊万里市民センターに田代さんを訪ねた時、知的障害のある人たちが陶人形を作っているセンター内のクラフト室を案内してもらった。作品の一つ一つを手にして「いいでしょう。私のものよりずっといい」

「これはムンクの〝叫び〟に似ていると思いませんか」と、ある青年が作った人形を見せてもらった。愛や死、不安といった人間の魂の叫びをテーマにしたノルウェーの画家ムンクの代表作「叫び」。両手で耳を押さえ、大きく口をあけて何かを叫んでいる人間。その絵に「この人形の表情がそっくりでしょう」とほほ笑んでいた田代さん。

田代さんの生涯のテーマは「叫び」ではなく「祈り」である。しかし、よく見るとその青年の〝叫び〟も両手をそろえて胸にあてている。田代さんの「祈り」をしっかり形にしていた。田代さんが1985年に出した『小さなほとけたちのなみだ』は、そんな純真な〝ほとけたち〟が主人公の詩集である

「この子は、お父さんが〝おいたちが死んだらお前のいくところんなか ガスコンロもつけきらんけん、どがんする〟ちゅーて、いわしたとよ、とホロホロ涙を流す。この子は34歳 野の花の好きな女の子」

父親が知的障害のわが子を見つめふと漏らした言葉。だが、その子は父親の心の動揺をしかと感じとり、小さな胸を痛めて泣いたのだ。そんな悲しみをわがことのように感じとれる人が田代さんだった。

青年の作品「叫び」は今、わが家の庭に置いてある。

理事長 富吉賢太郎

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