学校法人 佐賀清和学園

理事長コラム「本のある風景」

Landscape with a book

No.31 伊藤緋紗子著「華の人―有田に生きた薔薇の貴婦人」

この本は、7月の第44回全国高校総文祭(2020こうち総文)の放送部門朗読で3年の井手綺音さんが最高賞を受賞。その時、井手さんがテーマに選んだ本です。作者の伊藤さんが「とても嬉しい」と喜んでおられると、有田の松尾町長からも連絡がありました。

「今から80年以上も前、真っ赤なバラのコサージュのついたつば広の帽子、小脇にはバイオリン。おしゃれなノースリーブのワンピースを着た笑顔の女性が上有田の駅に。それはまるで天使が降り立ったような光景だった」

エッセイストで翻訳家の伊藤緋紗子さんがそんなことを耳にしたのは、陶都・有田の「ふるさと大使」になって間もないころだった。その“天使”のような女性こそ有田の名窯・深川製磁の2代目、深川進のもとに遠く北海道・旭川から嫁いできた井内敏子さんのこと。

時は1924年。女性は家庭に入ると忍従を強いられるような封建的家族制度に縛られていたころ。父親が旭川の実業家で衆院議員という裕福な家庭で自由奔放に育った敏子は、東京の女学校山脇学園に通っていた時、皇室御用達深川家の御曹司、慶応の学生だった進と恋に落ち、燃えるような情熱を抱いたまま白磁の里に。
 しかし、有田に来てわずか11年、31歳の若さでその生涯を閉じる。有田の伝統的な家風と束縛に抗(あらが)いながらも、さわやかに新風を吹き込んだ“白い国から来たマドンナ”の情熱と生きざま。伊藤さんは、短かったけど、試練を乗り越え、まるでバラの花のように華やかに生きた敏子の人生にひかれて仕方なかったという。

伊藤さんが渾身の思いで書き上げた『華の人―有田に生きた薔薇の貴婦人・敏子の物語』(小学館)。女学校時代に「ミス山脇」にも選ばれたという美しいモダンガール敏子の人生がぎっしり詰まっている。

※2010年9月、有田町で開かれた出版祝賀会に私も参加しましたが、深川製品に多くあるバラやラベンダー、バイオリンの意匠は“敏子メモリアル”だったことを知りました。

理事長 富吉賢太郎

2020.09.14

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