本のある風景

2024.10.11

理事長コラム「本のある風景」61 江上剛著 「根津や孝助一代記」(祥伝社)

久しぶりの「本のある風景」です。元銀行マンで、数多くのベストセラーがある江上剛さんが初めて挑んだ感動の時代小説。タイトルからして時代小説そのもので、時代物が苦手な私としては、普通なら手にとらなかったかもしれない。だが・・・読んで良かった。

本を読む動機はいろいろ人によって違うと思います。例えば友達の紹介とか、新聞の新刊紹介を読んだり、立ち寄った本屋さんで立ち読みして、面白そうだからと買い求めたり。もちろん、図書館で見つけて借りて読んだり。

この本を手にしたのは、著者が江上さんということもありますが、先日、いつものように朝起きてラジオを聞いていたら、著者の江上さんの声が。そこで、江上さんが、私には珍しい時代小説ですが、実は今も健在なので名前は言えないが、知る人ぞ知る人を時代を変えてモデルに-という話しを聞いて、がぜん読みたい衝動にかられたのです。いったい誰?

想像を超える厳しい境遇の中で、幼き時から苦労をいとわず努力してきた人。そして、功成り名を遂げたのちも謙虚さを忘れず、社会貢献を続けておられるという、その感心な人とは!

本書は「・・・本所相生町1丁目で薬種商-つまり薬屋を営み、文化文政から安政のころまで大いに栄えた『根津や孝助』の話でございます。親の顔さえもまともに知らぬ貧窮の中で生まれた孝助の人生は波瀾万丈でございました。が、ひがむことなく刻苦勉励、努力に努力を重ねまして、地面30ヵ所も所有する身代を造り上げたのでございます」の書き出しで始まります。

日本橋「養生屋」の勤勉な手代、孝助16歳。生まれた時から父親を知らず、母に捨てられ、医師の徳庵に拾われた苦労人。古いことわざに「満は損を招き、謙は益を受く」とありますが、そんな生き方をする孝助に、生き別れた父親と名乗る男が・・・。二時間で読み切りました。

このモデルが誰か、調べましたが分かりません。江上さんに教えてもらいたい思いはありますが、こんな人が実在しているんだということで良しとしましょう。ちなみに、この本、ラジオ放送の当日からネット注文が殺到したということを後日、またしてもラジオで知りました。

人は人に学ぶ、本から学ぶ。間もなく「読書週間」。そうだ、図書館に行ってみよう!

理事長 富吉賢太郎


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