清和の窓から

2025.04.07

理事長コラム「清和の窓から」109  『春の小川』

『春の小川』

 

春らんまん。気持ちも弾みます。春はいつも晴れの日ばかりと思いきや、意外にも春は曇りの日が多いのか、日本では万葉の時代から桜の咲くころの曇り日を「はなぐもり」、卯の花(ウツギ)が咲くこのころの曇天を「うのはなぐもり」などと言って、その風情を愛でています。また、水温む候、小魚や水草が動きだす岸辺の風景を歌った『春の小川』は春の代表歌と言っていいでしょう。

「♪はるの おがわは さらさら ゆくよ…」。さすがに中高生の新学期ではないでしょうが、小学校に入学したら、まだ、どこかぎこちないクラス仲間が一緒にやる初めての共同作業。先生のオルガン伴奏にあわせ、小さな体を揺らし大きな声で『春の小川』の大合唱です。みんな記憶にあると思いますが、ふるさとの原風景を描いたようなこの童謡が、今では日本を代表するにぎやかな若者の街、東京・渋谷で生まれたとは驚きです。

私鉄・小田急線が走る代々木八幡の住宅街。国文学者・故高野辰之氏は春になるとレンゲやスミレが咲く岸辺の散歩を楽しんだそうです。のどかで穏やかなこの風景をこよなく愛し、1912年、そう、佐賀清和学園が創立された翌年、明治45年にこの『春の小川』を発表したのです。そのころ、「渋谷の村」には水遊びもできる小川が流れていたのですね。

でも、この1世紀の間に、大東京ならず佐賀あたりでも、こんな自然や風景がだんだん変わってきました。ひと昔前、どこの田んぼや小川でも、網かごひとすくいで、こぼれるようにとれたメダカですら絶滅の危機だという。ゲンゴロウ、アメンボに至っては、今やもうまぼろしに近い。

人里近くの雑木林や農地、ため池など、地域の人の手で穏やかに維持されてきた里地・里山がいつの間にか消えていく。『春の小川』と並ぶ唱歌『ふるさと』のイメージもだんだん変わってしまいそうです。

「♪ウサギ追いし かの山 小ブナ釣りし かの川・・・」

年寄りのノスタルジアと言われそうですが、何とかして消えゆく自然を取り戻したいとは思いませんか。日ごろから自然の恵みは貴重な宝物だと思って行動できる清和の皆さんであって欲しいと願っています。

新学期が始まりました。さあ、気持ち新たに前を向いて歩いていきましょう!

理事長 富吉賢太郎


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