本のある風景
理事長コラム 「本のある風景」64 柳澤佳子・著「お母さんが話してくれた生命の歴史」(岩波書店)
柳澤佳子・著「お母さんが話してくれた生命の歴史」(岩波書店)
人の命の不思議さと尊さが、じわっと押し寄せてくるような本です。
「あなたをつくっている60兆の細胞/その祖先は遠い遠い昔に海の中で生まれた/細胞は36億年の年月をかけて/あなたのいのちを支えられるまでに進化した」
フリーライター柳澤桂子さんの『お母さんが話してくれた生命の歴史』(岩波書店)はこんなやさしいフレーズで命の大切さを誘ってくれる。「小学五年ぐらいの子どもの読書力で楽しく読めるように」という柳澤さんの思いがこもった本ですが、小学生だけでなく中学生も高校性も、誰でも勉強になります。
この本は最初から最後まで、生命科学者でありエッセイスト、歌人でもある柳澤さんが語りかけるように文章が続きます。「地球ができたときを1月1日として、現在までの時間を1年間にたとえてみると、いのちが地球に芽生えたのは2月17日ころになります。生き物が陸上に上がってきたのが11月の終わり、そして人間があらわれたのは12月31日の午後8時ごろです」
生命の誕生の歴史を、やさしくかみくだいて、かみくだいて説きながら、かけがえのない命の大切さをしっかりと教えてくれる。「人の命は地球より重い」とはありふれた言葉ですが、そのありふれて、当たり前のことが昨今、あまりにも粗末にされてはいないか、と思いませんか。
ネットで簡単に見知らぬ者同士が出会い、いさかい、時には命に関わるような事件が後を絶たない。柳澤さんがいうように、とても不思議な、そして貴い命のことを子どものころからしっかり教わっていれば…。生命の誕生から気の遠くなるような長い時間がかかって、世界でたった1人の特別な自分になったことを知っていれば、そうそう簡単に自分を粗末にはできないはずだと思いませんか!
命を大切にするということは、自分を大切にすること。もちろん、自分の周りの生きている人すべてを大切にすることだと思います。今年も残り、あと1カ月になりました。
理事長 富吉賢太郎