本のある風景
No.5 田中菊雄著「現代読書法」
本を読むことに、果たして方法や技術はあるのか-。
「方法など考える前に、まず読みなさい」という人もいれば、かつてイギリス文壇の大御所と言われたサミュエル・ジョンソン博士は「君の息子に2冊のうち、どちらの本を先に読ませようかと思案しているうちに、他の少年は2冊とも読んでしまっていた。何でもいいから1日5時間読書。そうすれば、じきに学者になるだろう」と言った。
とはいうものの、笛を吹くにも術がある。一振りの剣にもこれを使う術がある。「考える術、書く術があるのと同様に読書にも方法、術がある」と言うのが著者の主張。
もう、何十年も前に出版された本だが、うなずくことばかりである。
例えば「書籍、本とは何か?」。人が生きている間に経験することはいっぱいあるが、それでも宇宙の歴史などと比べたら微々たるもの。だが、本があるお陰で、我々の先祖、もっと大きく言えば人類の過去に於いて蓄積された多くの富と宝を継承することができる。本があるからキリストやソクラテスの話を体感できるし、シーザーやアレキサンダーらの英雄と会することもできる。リンカーンの雄弁に耳を傾け、柿本人麿、近松の詩歌の朗唱もできるのだ。
「教養と読書」の関係も実に面白い。著者はこう説く―。
教養とは単なる知識ではない。知識の集積でもない。教養とは、ものごとに時と所を得た適切な判断を下す自然的能力、正邪美醜に対する繊細な感覚、他人の感情に分け入ることのできるやさしい思いやり、ユーモアを解する大らかな心‥等々が特徴である。
田中菊雄は北海道の高等小学校を卒業後、独学で検定試験を受けて小学校の代用教員を経て上京。働きながら夜間の英語専門学校に通い、検定試験を受けて中学教員に。さらに高校教員となり、山形高校在職中に東北大学の教授とともに『岩波英和辞典』を編纂したすごい人。
「含蓄のある言葉が満載の本である。
理事長 富吉賢太郎
2019.06.03