本のある風景
2019.06.15
No.6 石川英輔「大江戸えねるぎー事情」
人情豊かな江戸時代の長屋暮らしを、これ以上なくうまく表現した川柳に「碗(わん)と箸(はし) 持って来やれと壁をぶち」と言うのがある。
◆板壁一枚で仕切られた棟割り長屋。隣の部屋に人がいるかどうか気配で分かる。うまいものが手に入ったが、一人で食べるより気心知れた友人と食べる方が倍うまい。そこで壁をトントン。すると、すぐに碗と箸を持って、いそいそとお隣さんがやってくる。
◆見事なリサイクル社会だった江戸の暮らしを紹介する石川英輔著『大江戸えねるぎー事情』(講談社文庫)には、そんな話が山とある。石川さんは濃密な人間関係を結びながらも、みだりには他人の生活に干渉しない江戸の暮らしを紹介しながら、ついひと昔前までは日本のどこにもあったそんな良き時代を懐かしむ。
◆「…玄関も裏口も開けっ放し。留守にしても何ということもない。親が働きに出ていてご飯の時までに帰らなければ、隣で食べる。逆に近所の子どもがうちで食べることもある。お互いにそうやって適当に助け合っていた。特段ボランティアなんて必要ない世界です」
◆この言葉の中にボランティアの本質がある。みんながボランティアならボランティアなどいらないのだ。だが、日常の暮らしの中に互助精神があった時代はよかったが、人間関係が希薄になり、コミュニティーの崩壊が懸念される今だからこそ、江戸に学びたいボランティアの心。誰もが無理せず、出来る範囲で、出来ることを…。
理事長 富吉賢太郎
2019.06.15