理事長コラム
校長メッセージ
高校は4月7日、中学校は4月8日に入学式を挙行。新入生を迎え、高校生1008名、中学生136名、計1144名の全校生徒が揃って、令和5年度の歩みが始まりました。
以下、第1学期始業式のメッセージからの抜粋です。
令和5年度がスタートしました。君たちは、学年が一つ上がって、改まった新鮮な気持ちで今日を迎えていると思います。今、それぞれに心に思い描いている抱負や目標があると思いますが、忘れてはならないのが本校の建学の精神「人間性の涵養」であり、その教育理念「明」はであるということです。「明」とは聡明の明。明朗の明。すなわち、学業に励み、礼儀正しく情操豊かな教養を身につけること。そして「和顔愛語」を実践することを常に心がけて欲しいと思います。
今日はまず、学業に励むということについて。すでに故人となられていますが、歴史学者の阿部謹也先生の話を紹介します。阿部先生が大学生だった時、卒業論文のテーマがなかなか決まらず、上原専禄先生に相談した時の話です。上原先生は、「どんな問題をやるにせよ、それをやらなければ生きてゆけないというテーマを探すのですね」と言われたそうです。阿部先生は生活のためのお金に困る苦労の多い生活をしていましたので、「生きていくことはいかに食べるか」ということだと思っていたらしいのですが、「何一つ書物を読まず、何も考えずに生きていけるか?」と自問自答し、そんな生活はできないということが納得できた。真剣に考えて自分の体の奥底で納得できたのだそうです。
「それをやらなければ生きてゆけないテーマ」を卒業論文までに見つけることはできなかったけれども、一生その問題を探し続けるという姿勢のようなものができたことが研究の原点であったと阿部先生は語られています。(阿部謹也『自分の中に歴史を読む』ちくま文庫 参照)
「それをやらなければ生きてゆけないテーマ」。それは、一人一人が自分で見つけるものですが、例えば大リーグの大谷選手にとって、それは野球なのだろうと思います。だからどこまでも探究し、自分を磨いて進化しつづけることができる。
また佐賀大学美術館で展示を見た時のこと、とても面白い(interesting)素敵な絵を描く学生の作品に添えられたプロフィールに「私にとって絵を描くということは、ご飯を食べるのと同じように、なくてはならない生活の一部だ」という旨のことが書いてありました。
探究せずにはいられないテーマは、すぐには見つからないかもしれません。しかし、日々学びながらそれを探し続ける姿勢。この姿勢は意思があれば誰にでもできるはずで、多くの本と新聞を読んで広く世界を知り、考えることが必要だと思います。そういう知的な営みと誠実な取り組みこそが人間性を磨くことになる。私はそう思います。
佐賀清和中学校・高等学校校長 土井研一(2023年4月)