本のある風景

2020.10.09

No.32 『DNAと赤ちゃんと私たち』(生命尊重センター編)

「子どもたちの素朴な疑問にきちんと答えられる大人でいたい」。いつもそう心掛けているのだが、難しいことをやさしく伝えることほど難しいことはない。

村上和雄・筑波大名誉教授は遺伝子研究という難解な科学を実に分かりやすく教えてくれる達人だ。例えば人の命の尊さについてどんなふうに説くのか。ヒトの遺伝子暗号は約30億の文字からなっているそうだが、村上さんはまずその30億という概念を説明する。『DNAと赤ちゃんと私たち』(生命尊重センター編)から拾ってみよう。

「30億の文字。読めるような字に拡大すると1ページ1000字で1000ページの本3000冊分になります」。なるほど!。そして続く。「それがどんな所に書いてあるかと言うとお米1粒の50億分の1という細胞の核の中です。そんな小さな所に人の命の基本的な設計図が全部書いてあり、それが間違いなく働いている」

さらに畳みかける。「私たちは遺伝子暗号を読めたと言って有頂天になっているけど、読む前に書いてあった。読んだ者より書いた者が絶対すごい。誰が書いたのかそれはもう神業としか言いようがない。そして一つ書き方を間違えられたら人間として生まれていないかもしれないのです」

生命誕生の神秘、命の不思議がずしんと伝わってくる。「赤ちゃんは人類最高の傑作。大切に」という村上さん。受け継ぐ遺伝子の違いで1組の両親から生まれる赤ちゃんは確率として70兆の可能性があるそうだ。70兆の中から選ばれた大切な一つの命。かけがえのない“オンリー・ワン”。このことを誰もが知っていてほしい。尊い命の話です。

理事長 富吉賢太郎

2020.10.09

 


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