本のある風景

2021.05.15

No.40 岩波書店「図書」

岩波書店は1913年、東京は神田神保町に岩波茂雄(1881―1946年)が古書店を開いたのが始まりである。

開業翌年には夏目漱石の『こゝろ』を刊行して出版界の話題を独占した。その岩波書店が1949年から出している『図書』という100㌻に満たない月刊誌がある。ちょうど私の生まれた年で、70年以上も知的好奇心あふれる人たちに愛読されてきたこの小雑誌は「読書家の雑誌です」がキャッチフレーズだ。

巻頭言の「読む人・書く人・作る人」はもちろん古今東西の名著をめぐる、とっておきのエピソードや一流執筆陣によるエッセー、対談など盛りだくさん。一部100円(年間購読は1000円)。知る人ぞ知る隠れたベストセラーである。

昨年お亡くなりになったが、相知郵便局元局長・佐伯岳歩さんも愛読者の一人だった。その佐伯さんから以前、「佐賀にはすごい人がいますよ。なんと『図書』第1号から現在までの総目次・索引を作り、編集部にプレゼントした人がいる。誰にでもできるものではない。大変な歴史の証言だ。その労力に敬服しますね」と教えてもらったことがある。

その人は佐賀市川副町の浄教寺前住職内田時哉さんという人であった。内田さんは1949年の第一号からすべて所蔵、その総目次を丁寧に書き写し冊子を作製。「たかが目次、索引」と言うなかれ。「朝露の一滴にも、天と地が映っている」という言葉通り、その項目だけでも時代時代の世相、出版文化史が見てとれるもので、驚いた。

内田さんは読書を生涯親しみ、「活字は繰り返し、ゆっくりものを考えるという意味で貴重だと思う。活字という〝知の牙城〟を守らなければ…」と、昨今の活字離れに警鐘を鳴らしておられた。本を読もう!図書館に行こう!

理事長 富吉賢太郎

2021.05.15

 


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