本のある風景

2021.10.15

No.44 「さとこの日記」(ひくまの出版)「いのちの和」(駒草出版)

たった一つしかない尊い命と生きることについて考えてみよう。

『さとこの日記』は、先天性胆道閉鎖症という難病で、医師から「3カ月の命」と言われて生まれてきた鈴木聡子さん(故人)の闘病日記。聡子さんは、人形のような小さな体で手術をした。満二歳になってやっと少し歩けるようになり、それから、時には血を吐きながらも字を覚え、日記を書き続けた。

しかし、その〝命の火〟は14年4カ月で燃え尽きた。不治の病の病床にありながらも懸命に生きた少女の短い生涯が胸を打つ。つらくても、命ある限り生き抜いた聡子さんのことを思えば、大方の人は、きっと勇気をもらい、命より尊いものはないと考えることができるはず。そう、自分の命も他人の命も同じように・・・。

そして、もう一冊は、全国の子どもたちが、たった一つしかない命について綴った詩『いのちの和』。この本を編集した佐賀市出身の詩人江口季好さんは「『さとこの日記』のように、生きることを考えさせる文学に多くの子どもたちが触れてもらいたい」と願って、編集にあたったと言う。

江口さんは「菊の花 咲くや石屋の 石の間(あい)」という芭蕉の句が好きだそうだ。乾いた石の間に、わずかな土と水を頼りに精いっぱい生きている一本の菊。人間、誰だってこの花と同じように、思いがあれば自分だけの花を咲かせることができますよ、と子どもたちの詩73編を集めて、この本を編んだ。

「死にたいと思っていた、この3年間。何もかもばからしく、何もかもに失望し、だれ一人信じることもできない。(中略)でも…今は生きたいと思う。死のうと思っていた時に〝浩美が死んだら悲しむで〟と言ってくれた人がいたから。すごく…うれしかった。一人だけだけど、言葉をくれた人がいたから、その日から笑えるようになった」(西森 浩美、中3)

そう、誰だって良いことばかりじゃない。でも、人生は、とにかく生きることだ。そして、もし生きることに悩んでいる人がいたら、その人に寄り添える人になってやれることが大事なのだ。

理事長 富吉賢太郎

2021.10.15

 


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