本のある風景
2021.11.04
No.45 井上ひさしさんと読書
読書の秋ということで、井上ひさしさんの読書にまつわるエピソードを!
井上ひさしさんは2010年4月、76歳で既に亡くなられているが、11歳のとき、初めて東京の出版社に本を注文したそうだ。山形の田舎町で、新聞の片隅に出ていた書籍広告が目に止まった。それは宮澤賢治の『どんぐりと山猫』
井上少年は小遣いをためたお金で為替を組み、「送ってください」と手紙を書いた。次の日から毎日郵便局へ行き、「注文した本、届いていませんか?」と。次の日も、次の日も。二週間目にやっと届いたときは、飛び上がるほどうれしかったそうだ。今や本はネットで注文、すぐ届く便利さに慣れてしまったが、そんな時代もあったのですね。
『本の話』(文藝春秋)に連載された井上さんの「本の運命」によると、井上さんが集めた蔵書は約13万冊。本によって窮地を救われ、本をめぐって戦い、本のために家が壊れ、ついには故郷に蔵書を寄贈し、図書館ができるに至るまでの話である。
その中に、こんな話もある。神田の古本屋で『円朝全集』を買い込んで読み始めたら、やたら赤線が引いてある。それも決まってこっちが引きたいと思うところに。「こしゃくなやつだな」と思いながら、ハッと気がついた。「な~んだ、おれが前に売った円朝じゃないか」
さて、井上流本の読み方十カ条の一つ「本はゆっくり読むと、速く読める」。小説でも専門書でも最初は丁寧に読んでいく。登場人物の名前、関係などをしっかり頭に入れておくと、自然に速くなるという。井上さんは、「この世から本は絶対になくならない」と断言する。なぜなら、言語は人間に与えられた最上の贈り物で、その媒介物として本にまさるものはない、というわけだ。
読書の秋、本を手にしてみよう。
理事長 富吉賢太郎
2021.11.04