本のある風景

2022.03.01

No.47 むのたけじ「戦争いらぬやれぬ世へ」(評論社)

ロシアのウクライナ侵攻という現実世界の出来事を皆さんはどう感じているのかなあと思って、この本を紹介しようと思いました。社会に目を向けて、現実を見つめるのはとても大事なことだと思うのです。

「430万年という人類の歴史の中で人類が戦争を始めたのは6000年ぐらい前。この人類の歴史を1日24時間にたとえたら戦争は23時58分20秒から始まった。たった2分足らずですよ、戦争が始まってから」

反骨のジャーナリストむのたけじ(武野武治)さんの言葉である。むのさんは2016年8月、102歳で亡くなっているが、100歳になっても故郷の秋田県横手市から戦争反対を訴えていたという。気の遠くなるような人類の歴史に比べれば、人間がいがみ合い、戦争を起こしてからまだほんの数分だ。だから今、人間が戦争を止められないことはない-という訴えである。

『戦争いらぬやれぬ世へ』(評論社)でもその持論がぶれることはない。むのさんは戦前、朝日新聞アジア特派員だった。終戦の日に、侵略戦争に加担した新聞記者の一員としてけじめをつけるため退社。ふるさとに帰って「たいまつ新聞」を創刊、一貫して反戦・平和を熱く訴えてきた。むのさんは「人間が戦争を止められないことがあるものか、まだ間に合う」と叫び続けてきたけど、世界は今でも憎しみの紛争やテロがやまない。今回の悪夢のようなウクライナとロシアの戦争でもそうだが、どれだけの尊い人の命が奪われていることか。

この悲劇の連鎖を断ち切るすべは、むのさんが言ったように、賢い人間の知恵しかない。「人は強さだけのゆえに存在しているのではない。弱さもまた、人の存在する価値である。強いことに寄りかかっている者は、すでに弱い。おのれの弱さに気付き、それを弱さとして受け止めている者は、すでに強くなり始めている」

攻撃と報復は強さではない。人間の弱さだ。その弱さに気付くことができれば、必ず「許し合う心」が生まれるはずである。むのさんの「この世から戦争をなくしたい、なくさねばならぬ」という叫びがウクライナの地に届くことを!

理事長 富吉賢太郎

2022.03.1


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