本のある風景
No.54「佐賀県近世資料・第9編第1巻」
「どんどんどんの森」の中にある佐賀市立図書館のリニューアル計画が進んでいます。新しくなる図書館はどんな図書館であってほしいのか。坂井市長さんは、いろんな人たちの考え、特に若い人の意見を取り入れたいそうだ。清和からも、その会議に参加してくれているようで、うれしく思います。ということで、今回は佐賀市立図書館ではないのですが、佐賀県立図書館にはこんな本もあるというお話です。
江戸時代、その名を知られた十返舎一九(1765―1831年)の『東海道中膝栗毛』。大江戸は神田八丁堀の弥次郎兵衛と喜多八が日本橋から東海道を下り伊勢参りを済ませて京を見物する、ユーモアと風刺てんこ盛りの大ベストセラー。ところが、この人気作家を食ったような「一編舎十九」というペンネームを持つ佐賀藩士が方言を駆使して世情を活写し、政治を風刺した数々の戯作(げさく)を遺(のこ)していたというのである。
本名は蒲原大蔵。1783年、佐賀藩家老の家に生まれたが5歳で父と死別。15の時、藩校弘道館に入学するが、やがて放校処分となり兄とともに江戸へ。その後、鍋島家に仕えた名家、蒲原家の養子となる。フェートン号事件の責を負った養父の自刃などがあって浪人生活も経験するが、三十半ばで着座家老の身分となる。
この大蔵が書いたのが『伊勢道中不案内記』。熊本藩士に仕立てられた佐賀の男たちが、お伊勢参りに出かける旅行記。明らかに、『東海道中―』を意識したものだ。けちで小心者のくせに、やたら威張りたがる主人公のてんやわんや。その愚かしさ、おかしさ。人間が持つ弱さを見事に風刺している。また、地獄のえんま大王から追い返された死者が佐賀へ戻って暮らすという荒唐無稽(むけい)な『反魂二世物語』では、大王が使っていた〝寿命台帳〟は、白山町の文具屋謹製の帳面だったというユーモアを忘れていない。
江戸時代、抱腹絶倒のこんな作品を佐賀の人が書き、佐賀んもんを笑わせていたとは、驚きますが、佐賀県立図書館刊行の『佐賀県近世資料・第9編第1巻』には、現存する大蔵の全作品が網羅されているそうです。
普通はなかなか手に取れない本や資料があるのも図書館です。さて、若い人たちの意見が反映されて、どんな市立図書館になるか、楽しみです。
理事長 富吉賢太郎