本のある風景

2020.03.17

No.23 短歌 俳句 川柳の味わい

室町時代の武将・太田道灌(1432―86年)。戦上手で日ごろから武勇を誇り、おごりも激しかったらしいが、詩歌にも優れていた。歌人・道灌を生んだ逸話がある。

ある時、金沢山での鷹狩りの最中、にわか雨に遭った道灌。近くの百姓屋に雨具を借りに行ったが、応対した娘は一枝の山吹を差し出し、恥ずかしげに頭を垂れるのみ。

無粋な道灌は何が何だか分からず立腹。後でそれは、娘が「七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞかなしき」という古歌に託して「私の家は貧しくてお貸しする蓑(みの)ひとつないのです」との断りだったと知って、おのれの無学を恥じ入り、それから道灌は熱心に和歌を学んだという。

出来すぎたエピソードだとも思うが、それにしても、とっさに古歌を思い出し自分の思いを伝える素養を身につけていた、かの娘さんがうらやましいが、この逸話を「山吹の花だがなぜと太田言ひ」と詠んだ川柳があった。逸話をわずか十七文字に昇華させた詠み手の感性に脱帽である。

先のエピソードを知らなければ「太田」が道灌だとは分からない。川柳のおかしさ、奥深さも味わえる句である。とにかく、知識とひらめき、そしてユーモア。短歌、俳句、川柳のある日本は何という愛すべき国かと思う。

理事長 富吉賢太郎

2020.03.17

 


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