本のある風景
2020.04.10
No.25 村上龍・著『あの金で何が買えたか』(小学館)
お金の価値とはどういうものか、教えてくれる本。20年前に書かれたものだが我慢して読んでほしい。必ず勉強になると思う。
村上さんがこの本を書いたのは1998年。その前年に破たんした山一証券の「簿外債務は2300億円」と「フォルクスワーゲン、ロールスロイスを950億円で買収」という二つの新聞記事を見たのがきっかけだった。
世界最高級車ロールスロイスの社屋や工場だけでなくパテントやノウハウを含めた諸権利。熟練労働者、顧客リストに販売網。そのブランドイメージを含めてすべてを1000億円に満たないお金で手に入れることができる。
となると「山一の2300億円とは何なのだろう」という疑問が頭をよぎったという。バブル崩壊後、次々に発覚した金融機関や企業の不良債権や債務。そして湯水のようにつぎ込まれた公的資金。村上さんは、その莫大なお金を独特の視点でまな板の上に乗せた。
例えば、アジア、アフリカを中心に栄養不足と不衛生による子どもたちの下痢性脱水症状が深刻で、ユニセフは「経口補水塩」を配布している。1包10円。これを1年間給与すればどれほどの人命が救われることか。危機にある2700万人を救うのに985億5000万円あればいい。
読み書きができないまま大人になろうとしている途上国の子どもたち約1億3000万人に基礎教育を受けさせるには年間70億ドル(約8000億円)の教育費が必要だ。これは日本人のおもちゃの年間消費額とほぼ同じだという。村上さんは「今、何よりも大事なのは知ることだ」という。確かに知ろうとしなければ誰も考え始めることはない。知ってこそ世界を見る目ができてくる。
理事長 富吉賢太郎
2020.04.10