本のある風景

2020.05.14

No.27 土門拳の写真集と「アンネの日記」

『アンネの日記』のユダヤ人少女アンネ・フランク(1929~45年)の唯一の生前映像がインターネットの動画サイトに登場したのはもう10年以上前になる。アムステルダムの「アンネ・フランクの家」博物館の公式映像だった。

そのニュースに触れたとき、作家柳田邦男さんと写真家土門拳(1909~90年)の写真集『筑豊のこどもたち』を考えた。1960年春、ザラ紙印刷で土門が出した1冊100円の写真集。私は手にしているのは、1977年7月に新装版として発売されたものである。

その中に〝弁当を持ってこない子〟のタイトルで4枚の写真が収められている。誰が見ても衝撃の写真である。柳田さんは土門の写真を見つめながら深く考察。その1枚1枚が日本の産業構造の転換の〝影〟の中で生きることを強いられた犠牲者たちのうめきを象徴する記録だと言う。そして、「その写真集が自分の人生を決める一冊になったのだ」と。

柳田さんは2002年に小学館が土門の遺作を精選し刊行した『腕白小僧がいた』の解説でその気持ちを吐露している。柳田さんは炭住街の子どもたちの姿に、激しい労働争議の光景よりもはるかに深く、その当時の日本の問題の本質が見えたように感じ、「それは幼い一人の少女が記した日記がナチスによるユダヤ人大量虐殺の悲惨を死者数の統計データよりはるかに強烈に伝えてくれるのと相似だ」と記している。

土門拳とアンネ・フランク。何のつながりもないが、残した作品には時代を超えて確かなメッセージがある。ネットを通じてアンネ・フランクに会える時代ではあるが、その日記も同時に開いてみたいものである。ひと味違った歴史の勉強になるかもしれない。皆さんも今、「私の一冊」になるような本に出会ってもらいたいですね。

理事長 富吉賢太郎

2020.05.14

 


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