清和の窓から
No.61 脳を鍛えるための「読書」と「会話」
「言語脳科学」というのは、言語を中心に人間の脳の構造と機能を研究する学問だそうですが、その第一人者とされる酒井邦嘉東大教授が、ある月刊誌に「紙の本が脳を創る」と題して、「本を読みましょう」「人との会話を楽しもう」と語っておられた。思いもしない視点で、とても面白かったので、皆さんにも紹介します。
今どきは電子書籍なども充実していて、「紙の本でも電子書籍でも内容は変わらないのだから、どちらでもいいんじゃない」と思ってしまいますが、紙媒体と電子媒体では、脳を鍛えるという点において明確な違いがあるそうです。
酒井先生が言うには、紙の本を読むとき、人間の脳は単に書かれている内容だけを読み取っているわけではない。本の手触りや厚さ、装丁、本文のレイアウト、書体など五感に訴えてくる様々な要素を同時に処理している。だから、本の内容に直接関係のないものも脳に刻まれていき、画面が画一的にスライドしていく電子書籍に比べてはるかに豊かな情報を手がかりとして脳を鍛えることになるそうだ。
また、言語の入力は①文字で読む②音声で聴く③映像で見る-など様々だが、脳に入力される情報量は映像-音声-文字の順で減っていく。つまり、脳に対する情報の入力量としては文字が一番少ないが、脳は、その足りない情報を想像力で補おうと努力することで鍛えられるという。そこに本を読むこと(文字による脳への入力)で想像力を培うという読書の意義があるのだそうだ。
逆に脳からの出力となると、情報量が多いほどいいそうで、例えばメールよりも電話、電話よりも対面の会話のほうが情報量も多くなり、脳が鍛えられるという。相手の表情が見えず、声も聞こえず、文字数も限られているメールやネット上でのやり取りでトラブルになりやすいのは、その情報量が少なくて、それを読む人に対する書き手の想像力も乏しいから、解釈の行き違いで誤解や炎上なんてことも・・・。
要するに、脳を創る、使う、鍛えるには「適度に少ない情報の入力」と「豊富な情報の出力」の両方が必要と言うわけで、それには「読書の習慣」と「会話を楽しむ」ことが誰にでもできる最適な方法だそうです。少し難しい話になりましたが、読書が大切なのは、本を開いて、読んで、思考して、そして自分の言葉で書く、話す-という、とても大事なことの〝基本の基〟であるということを頭の片隅においてもらえばと思います。
理事長 富吉賢太郎