清和の窓から

2023.04.17

No.75 雑巾(ぞうきん)のお話

今日は雑巾(ぞうきん)のお話です。たかが雑巾、されど雑巾とでも言いましょうか!。

 

評論家高田保が神奈川・大磯に居を移したのは1947年のこと。引っ越し荷物を入れようと押し入れを開けると小さな包みが置いてある。中には上等の障子紙と新しい手縫いの雑巾。高田は包みをそっと置いて引っ越して行った前の住人の心遣いに心打たれ、体が震えるほど感動したという。こうなると障子紙と雑巾は、もはや単なるモノではない。洗練された心の表現であるし、受け取る方にも豊かな心がないと“なんだこりゃ”と無意味なものになってしまう。

「障子紙と雑巾」の心遣いと、その行為に感謝・感動する心も日常の中で育っていくのですね。ちなみに押し入れにその包みを置いて引っ越しした前の住人は島崎藤村の未亡人だったそうだ。なるほど納得!。

 

もう一つ雑巾のお話し・・・。

 

『黄昏のロンドンから』など生活感あふれる作品で知られるエッセイスト、木村治美さん。今も忘れられない心苦い経験があるそうだ。ある教育講演会の締めくくりに会場の保護者たちに呼び掛けた。「お母さん、私からのお願いです。子どもたちが学校で使う雑巾、その雑巾だけは買ったものでなく自分で縫ったものを持たせてくださいね」。ところが会場から「買った雑巾と縫った雑巾、どう違うんですか?」と質問があったのだ。

思いもしない質問に、木村さんは「そ、それは、こころの問題…」と、しどろもどろになってしまった。すると質問者は「人の心って見えるんですか?」と畳みかける。もう、それ以上何も答えられなかった木村さんは疲れ切って会場を後にしたという。

木村さんは、いろいろ思いめぐらした後で「どうしてあの時、こころは見えます。人の行動を通してこころは見えるんですよ」ときっぱり言えなかったんだろう―と今も後悔しているという。

そう、人のこころは目には見えないけど、その人の行い、仕草、言葉を通して見えるものです。新学期、みんな仲良く〝清和ライフ〟できてますか!。

 

理事長 富吉賢太郎


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