清和の窓から

2021.07.06

No.44  「旧高取邸」・・・文学散歩によせて

図書部から文学散歩の案内が届きました。今回は風光明媚な唐津を訪ねると言うことなので、ルートにある高取邸について少しだけ・・・。

唐津湾を背景にして、海辺に沿って白御影の石垣に囲まれた広大な敷地の中に、ただならぬ邸宅がある。明治の時代。「肥前の炭鉱王」といわれた高取伊好(1850―1927年)が建てた住まい。国の重要文化財で、杉やヒノキの良材をしっかり使って造られた建物は百年の歳月を経てもなお重厚な趣を見せている。伝統的な日本座敷のよさは言うまでもないが、欄間や窓ガラス、建具の引き手などモダンな仕掛けが随所に施されている。

壁にマントルピースをはめ込んだ書斎。漢詩をたしなんだ当主が今もそこにいるような錯覚に陥る空間である。圧巻は能楽堂を中心とした部屋だろう。茶会の後に能を観賞することは最高のぜいたくだった。唐津産石炭の活用を説いて講演した大隈重信の歓迎宴会場ともなった能を観賞する大広間は、市民の公的な集会や園遊会にも利用されたらしい。

緑あざやかな大老松が描かれた鏡板のある能舞台には玄関からも直接出入りできる。「設計士が偉かった」と言いたいが、いやいやこれは建築主・高取伊好の高い見識と趣向あってこそのもの。財力もさることながら名品をえりすぐって集めるだけの教養をも備えていたのだ。

そして、東の浜と西の浜を両翼にして天に舞うような唐津城。その姿を「舞鶴城」とはよくぞ言ったものだ。この白く気高い城を眺めながら城下に入っていくと、古い石垣や手入れの行き届いた生け垣に囲まれた落ち着いたたたずまいの中に邸宅はある。和洋折衷の二階建てで、網代天井の茶室、暖炉のあるアールヌーボーの洋間、欄間の見事な透かし彫り、調度品など見所満載。

明治の近代建築の粋を極めた邸宅には京都の絵師が泊まり込んで描いたという杉戸絵が七十枚以上。保存状態のいい花鳥風月や中国の故事にちなんだその絵を見たとき、その素晴らしさに息をのんだことがある。ぜひ、堪能してきてほしい。

理事長 富吉賢太郎

2021.07.06

 


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