理事長コラム
2学期始業式挨拶
2学期が始まりました。以下2学期始業式メッセージからの抜粋です。
今日は経済学者ミルトン・フリードマンについて、経済学者宇沢弘文が語ったエピソードを紹介します。ミルトン・フリードマンはすでに亡くなっていますが、ノーベル経済学賞受賞者で、新自由主義という考えを提唱し、今でも各国の経済政策に大きな影響を与えているアメリカの経済学者です。
1970年前後のことだと思いますが、フリードマンがシカゴの銀行窓口で、イギリスポンドの空売りを1万ポンド申し込んだそうです。ポンドはイギリスの通貨で、そのころの為替レートが1ポンド=2ドル80セントから2ドル40セントに切り下げられることがほぼ確実と分かっていました。だから借りた1ポンドを2ドル80セントで売り、ポンドの切り下げ後に2ドル40セントで買い戻して1ポンドを返せば、1ポンド当たり40セントの利益が上がるというわけです。つまり借りたものを高値で売り、安値で買い戻して返却する。(手順が逆で複雑ですが、つまり安値で買ったものを高値で売って利益を得るのと同じです)フリードマンは何かの必要を充たすためではなく、ただ自分の利益を得るだけのためにドルとポンドを交換しようとしたわけです。
しかし、銀行はフリードマンの申込みを断りました。「ノー。われわれはそういうことはやらない。なぜならわれわれはジェントルマンだからだ。」それでフリードマンはカンカンになって「資本主義の世界では儲かるときに儲けるのがジェントルマンだ」と真っ赤になって大演説をぶったというエピソードです。
銀行の考えるジェントルマンと、フリードマンが考えるジェントルマン。君たちはどちらに共感しますか?清和生であるからには「人間性の涵養」ということと合わせて考えてみてください。
フリードマンからすると、自分の努力と才能を存分に発揮して利益を上げるアイデアを自由に考えたということでしょう。しかし、売り買いの相手として、ポンドを高く買った人と安く売った人がいることになります。つまり自分が利益を得る分だけ誰かが不利益を被っているということ。しかも利益はフリードマンが独占することになる。これと同じことを皆がやり始めたらどうなるか?銀行はそこいらへんのことを承知してジェントルマンとしての誇りをもって判断し対応したのであろう。私はそう思います。
佐賀清和中学校・高等学校校長 土井研一(2023年8月)