理事長コラム

2024.01.12

2024 3学期始業式挨拶

新年早々、能登半島で震度7という大きな地震と津波、さらには大規模火災が発生し、日本中に大きな衝撃が走りました。大きな余震が今も続いています。そこに身を置いている人たちはどれほど怖い思い、不安な思い、そして寒い思いをしていることか。また、その救援物資を届けようとしていた海上保安庁の航空機と日航の航空機が羽田空港C滑走路で衝突する事故が発生しました。実際に起きた災害の現実を思い知らされました。

道路が寸断され、余震が続き、雨と雪の影響もあって救援活動が困難な中で、避難所の設置、道路・電気・水道などのインフラの復旧、そして救助活動にあたっている方々が大勢おられます。自らもまた被災者であろう方々の使命感に唯々頭が下がります。

そうした活動の中で、発生124時間後に90代女性が救出されたというニュースがありました。羽田では日航機の乗客・乗員が全員無事に脱出。これは海外メディアでも奇跡として賞賛されました。また、機外に逃れた乗客たちを全日空のスタッフが避難誘導したそうです。こうした希望へと続く現実があります。一方、混乱を招くフェイクニュースがSNSで拡散されたり、一部空き巣行為や詐欺行為が発生しているのも現実です。

被災状況の全容は今後しだいに明らかにされていきますが、復旧と復興は相当に長丁場になります。その間、希望を持って人がつながるためには、文化の力が必要だと思います。

4年前、新型コロナパンデミックの対応で世界中でロックダウンや不要不急の外出などの行動制限が始まったころ、当時のドイツ首相メルケルはいち早く芸術・文化は不要不急ではない。人間にとって必要不可欠なものだということを支援策とともに示しました。「人はパンだけで生きるのではない」のです。

「ゲド戦記」を翻訳した児童文学者の清水真砂子さんは、著書の中で「心が萎えたとき、文化こそが私たちを立ち直らせてくれるのです。」という姫田忠義さんの言葉をひいておられます。また、ご自身の経験として、子どものころ日常に会える生の人間は家族、近所の人、学校の友達と先生に限られていたけれども、本の中でたくさんの人に出会うことができた。そこには想像をはるかに超えた高貴な魂を持った人もいれば、とてつもない悪党もおり、卑しさを全身に漂わせる人もいた。しかも同じ人間の中に、その全部が入っていたりもする。人は限りなく神に近くもなれば、限りなく悪魔に近くもなりうる。そんなことを物語を読んで知ることができた。それで、自分がなりたいと思うモデル、憧れ尊敬できる人にどうしたら一歩でも近づけるか、どうしたら逆の人間にならずにいられるかという課題が自身にせまってきた。その課題は70歳を過ぎても続いていると記されています。(清水真砂子著 『大人になるっておもしろい?』岩波ジュニア新書 より)

どんな作品と出会ったか。日常の中で享受している文化の質は、人間の感じ方、考え方、そして行動のありように影響する。君たちが、立ち上がる力としての文化、希望の力(プリキュア?)をしっかりと受け継ぎ、分かち合い、伝えていけるように、学問・芸術・文化に勤しむよう願います。              校長 土井 研一


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