清和の窓から
No.69 興味・関心・・・そして好奇心
『人はなぜ、同じ過ちを繰り返すのか?』(清流出版)は、宇宙物理学の権威で旧制唐津中(唐津東高)OB佐治晴夫さんと気鋭のジャーナリスト堤未果さんの白熱対談。とても面白かったから「本のある風景」として紹介しても良かったのですが、その前に、佐賀と縁のある佐治さんそのものを知ってほしかったので、ここで紹介することにしました。
10年ほど前、東京のホテルオークラで「宇宙・生命・教育」をテーマに、ダライ・ラマ法王と対談したこともある佐治さんは85歳を超える高齢ですが、まだまだ興味・関心、好奇心は旺盛。東大、玉川大、横浜国立大教授、鈴鹿短期大学長などを歴任。NASA客員研究員でもあり、宇宙研究で得られた成果を平和教育のための素材として位置づけるリベラルアーツ教育の一環として全国の学校への出前授業なども実践された人だから、話が面白い。
例えばこんな話し・・・。
Aさんは「丸い円だ」と言い、Bさんは「長方形だ」と譲らない。二人が見ているものが同じものであることをどう証明するか。佐治さんは「見方を変えれば二人が同じものを見ていることが証明できる」と言い「それは円柱である」。なぜなら、Aさんは真上から見ているから(円柱が)「円」に見え、Bさんは真横から見ているから「長方形」にしか見えない。見方によってこれほど事実も違ってくるというわけです。モノをきちんと見る。人と人の付き合いなどにも言えそうです。
もう一つ。
ジョディ・フォスター演じる天文学者が地球外生命体(ET)と接触を図る映画「コンタクト」(1997年)。NASA(米航空宇宙局)を中心としたET探しは実際行われており、この映画も単なるSF映画とはひと味違う。天文学者カール・セーガンの小説が原作だが、ハリウッドから宇宙との交信方法で相談を受けたのが佐治さん。
宇宙のどこかに人間と同じような生命体がいるとすると、その者との交信にはどんな方法が考えられるのか―。相談を受けた佐治さんが示したキーワードは「数と音と光」。例えば日本と朝鮮半島。海ひとつ隔てただけだが、すぐさま言葉によるコミュニケーションは容易ではない。だが、数学や音楽、そして光線なら…。「これらを基に考えれば宇宙へのコンタクト(接触)も可能になる」というのが佐治さんの考えで、佐治さんのアドバイス通り、映画では、ひたすらに宇宙からの信号を待ち続けるジョディ・フォスターが、ついに謎のノイズ(雑音)をキャッチ。その信号を数学で解読していくシーンになった。佐治さんは惑星探査機ボイジャーにバッハの曲「プレリュード」を搭載することを提案、実現させたことでも知られるが、「君たちは137億年前の星のかけらなんだ」と、難解だがロマンあふれる宇宙論と人間が生きていることの意味をうまく結びつけて子どもたちに語っている。
「宇宙の中の、たった一つの原子が欠けていたら自分は今ここにいない」。そう考えたら誰とても人の命を粗末にはできないのです。
「今ここにいる自分は一体何者か?」という問いかけがとても大切だとも言われる。つまり、自分の居場所を確かめ、それが実感できるかどうか。「人が生きていけるのは帰る所があるからで、そこに帰ればありのままの自分を受け入れてくれる人がいること」というのも佐治さんの言葉です。人の〝居場所〟とは家庭、学校・教室、地域、友達のいる所・・・人によっていろいろだと思います。
理事長 富吉賢太郎