清和の窓から

2020.07.06

No.29  こころ落ち着けて・・・

日本の日記帳の体裁は特別だそうである。
必ず記す「〇月〇日〇曜日」。これはどこも同じだが、その次の「天気」を書くようになっているのは日本だけらしい-。という話を、国文学者金田一春彦さん(故人)の講演会で聞いたことがある。

ずいぶん前のことで、今は違っているかもしれないが、金田一さんは日本文化と日本語について話す中で、そんなことを披露された。日本の文化は四季のある豊かな自然の中で独特の発想と創造を繰り返してきた。日記帳に天気を書くのもその一つという話だった。

「雨男」「雨女」といった空模様と密接なかかわりを持つ独特の言葉も日本ならではの表現と言えようか。例えば「雨宿り」。急な雨に降られて困った時、ちょっと軒先をお借りして、しばし雨宿り。これを意味する英単語はない。英語表現は「take shelter from the rain」と風情もない。

もう一つ「雨天順延」。体育祭など野外イベントにはつきもののこの言葉。英語表現となると「To be postponed till first fine day」(雨の日は最初の晴れた日まで延期される)となる。何ともじれったく、まどろっこしい表現ではないか。

さて、長引く梅雨が恨めしい。早く明けてほしいが、これも「梅雨」と書いて「つゆ」と読む。金田一さんによれば漢字をあてないで最初から「つゆ」とかなで書いてもよかったのに、これも何とかして漢字で書こうとした結果なのだ。こうなると、梅の実のなるころに降り続く雨を、ただ雨とするのではなく「梅雨」とした先人たちが誇らしく思えてくる。

なかなか終息しないコロナ禍。こんな話を聞くと、何だかイライラほどけて、どんなに厳しくとも、その情況を受け止めることができるような気持ちにもなりませんか。

理事長 富吉賢太郎

2020.07.06

 


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