本のある風景

2021.03.30

No.38 佐治晴夫・著「宇宙の風に聴く」カタツムリ社

宇宙物理学者である佐治晴夫さん。東京都出身ということだが、確か、子どものころだったか、唐津で暮らしたことがあると聞いた記憶がある。とにかく、お話が面白いし、うまい。難しいことを誰にでも分かるように、やさしく語られるから、引き込まれてしまう。

例えば、人間も草や木も、そして雲や太陽も、この地球上にあるものすべてがつながっているということを、佐治さんは、次のように説明される。

人間は呼吸をしないと生きていけない。空気を吸って、その中にある酸素を取り込み、二酸化酸素をはき出す。人間がはき出した二酸化酸素を自然の木々が取り込んで酸素を出してくれている。だから人間と草木はつながっている。その草や木は雨が降らないと枯れて育たない。雨は雲がないと降らない、雲は太陽がないと出来ない・・。つまり、人間と草や木、雨も雲も太陽もすべてつながっているのです。

こんな佐治さんの話を聞くと、この地球上で生きているものものすべてが大事に思えてくる。

「宇宙の風に聴く」のサブタイトルは「君たちは星のかけらだよ」となっている通り、宇宙と人間の関係がやさしく説かれている。星はなぜ光るのか、宇宙はどうしてできたのか、夜はなぜあるのかといった、いくつもの謎を解き明かしながら、「私とはいったいなんだろうか」「希望があるから生きられる」、そして、「学ぶとは何か」まで教えてくれる。

人が流す涙は必ず蒸発し、やがてしずくに変わって雨になる。今、落ちている雨のなかには、およそ80年前に泣いた人の涙が含まれているらしい。また、私たちが呼吸してはき出す息の中には微量ながら炭素や窒素が入っている。それらは体の外に出ても消えてなくなることはないそうだ。どんどん広がって地球全体を覆うのに約1千年。ということは1千年前の昔の人が吸ったであろう空気を私たちは今、吸っているかも・・・。

佐治さんは、そんなふうに話を組み立て、宇宙の不思議から始めて、かけがえのない命、生きることの大切さを教えてくれる。ページをめくるごとに不思議な気分になり、知らぬ間にエネルギーが沸いてくるような一冊である。

理事長 富吉賢太郎

2021.03.30

 


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