本のある風景
No.51 辺見じゅん・著「ダモイ遙かに」「収容所から来た遺書」
二宮和也さん主演の映画「ラーゲリより愛を込めて」を見た。戦争を知らない世代と言われる私でも涙を流さずにはおれなかった名作です。二宮さんの好演が評判で、テレビや新聞などで大きく報じられていますが、この映画は辺見じゅんさんのノンフィクション作品『収容所から来た遺書』(文藝春秋)と『ダモイ遙かに』(メディアバル)が原作と関連本となっています。
第二次世界大戦後に参戦した旧ソ連が、旧満州・樺太・千島等から日本の軍人や民間人をシベリアの収容所に連行し、何年もの間、強制労働を強いたのです。抑留者は約70万人、零下40度の厳寒の中で、満足な食料も与えられず、その過激な労働によっておよそ7万人もの抑留者がなくなりました。なくなった人たちは原野の白樺林に埋められて、現在も所在がよくわからない状態にあるそうです。
そんな過激な収容所の中にあって島根県沖ノ島出身の山本幡男さんが抑留者たちに「私たちは必ず生きて帰るんだ」と仲間たちを元気づける行動を起こします。映画は本当にあった話しとして山本さんを中心に描かれます。
過酷な環境の中で帰国を夢みて頑張る山本さんら日本人捕虜たち。しかし、山本さんもついには病魔に倒れ、生きて帰ることはないだろうとの思いで日本の家族に遺書を・・・・。冷酷な収容所ですから、書き物は許されません。そこで4人の仲間たちが、山本さんの口述を分担して暗記してくるのです。4人が必死で覚えた4通の遺書が家族に届けられたのは戦後12年も経ってからのことでした。
私は昭和24年生まれ。戦争を知らないで生きてきたのですが、戦争は終わっていたのに依然として抑留されていた人たちがいたのです。
今、ロシアは戦争中ですが、戦争とはいかに残酷で悲惨なものか。また、そのために多くの人の命が失われ、家族や大切な人も失うということを、私たちはもちろん、これからの時代を担う子どもたちに伝えていきたいものです。山本さんがいつも口にしていたのは「生きる希望」だったのです。どんな逆境のもとにあっても「希望」だけを失ってはいけないという戒めとして心に刻んでおきたいものです。
辺見じゅんさんの『収容所から来た遺書』を、子どもたちにも読んでもらいたいとして子ども版として出版されたのが『ダモイ遥かに』(メディアパル)です。シベリア抑留体験者で生存されておられる方々はもう90代後半。こんな悲惨な歴史的事実をこのまま風化させてはいけないと思いながらページをめくりました。
理事長 富吉賢太郎