本のある風景
No.53 鎌田實さんが清和にやって来る!
来月8日、清和で教育講演会がありますが、講師は鎌田實さんです。医者で作家で、また日本だけでなく世界各地でも積極的に医療ボランティア活動をされているすごい人です。「鎌田さんは日本一やさしいお医者さん」だとして、これまで何冊も先生の著書を書いていますが、講演前に鎌田さんのことを少し紹介しましょう。
諏訪中央病院(長野)名誉院長でもある鎌田實さんは、小学生のころ、母親は病気がちで、ほとんど入院生活。家族のため懸命に働いていた父親はいつも帰りが遅かった。学校から帰っても家には誰もいない。一人っ子の鎌田さんには近所の友達が兄弟みたいなもので、やさしい隣のおばさんは、時々「實ちゃん、夕ご飯食べていきな。家には誰もいないでしょう」と声をかけてくれた。その時のうれしさが忘れられないそうだ。
いつもは仕事を終えた父と近くの定食屋で夕食をすませた。注文は「もやし炒めとどんぶり飯」。父は「うまいか」と言いながら「お前はもやし炒めが好きだな」と笑っていた。
鎌田さんはその「もやし炒め」について以前、テレビでこんなことを語っていた。「自分は、もやし炒めがそんなに好きだったわけではなかった。でも父を見ていれば、父の財布の中がどのくらいのものか子ども心にも察しはついた。だからもやし炒めで我慢した」。話を聞きながら、やさしいなと思った。人間・鎌田實の生き方の〝原点〟がそこにある。
こんなエピソードも何かの本で紹介しておられた。鎌田さんは以前、末期がんの連れ合いを亡くしたおばあちゃんから「先生、じいちゃんの病気のこと、なんで教えてくれなかった。治らない病気だと知っていたら、じいちゃんの布団に入りたかったのに」と言われ、普通の人の普通の思いを支えてあげられるような医療をしたいと心に誓ったという。「やさしくなくちゃ医者じゃない」。鎌田さんの言葉である。
そんな鎌田さんから届いた『本当の自分に出会う旅』(集英社文庫)。世の中にはやさしいお医者さん、いくらもいるだろうが、鎌田さんは特別やさしいお医者さんではないかと思っている。鎌田さんは住民とともにつくるやさしい医療を実践。そして長野県を長寿日本一にした“ひげのお医者さん”。今は佐賀県民の健康長寿にも応援してくださっている。
鎌田さんは、この本の中で「旅は人生の栄養剤。人類のDNAの中には“旅をしたい”という思いが刷り込まれているはずだ」と言う。今から500万年以上も前、アフリカのサバンナに現れた私たちの祖先は、まず食べものを求めて旅をした。その旅はアフリカ大陸からユーラシア大陸へと次第に広がった。生きるための旅から、未知なる所へ行ってみたいという好奇心の旅をする者もいて、大陸だけの移動だけではなく、ついには海を渡った。新しい世界で種をまいて、そして人類は進化をして人間になっていったのだ。
だから鎌田さんは「病気であっても、障がいがあっても旅をあきらめないで」と言うのである。『本当の自分に出会う旅』には末期がんの女性やダウン症の青年ら、鎌田さんと旅をした多くの人たちの極上のエピソードがちりばめられている。
鎌田さんの言葉をもう一つ。「人の命は三つのつながりで守られている。“人と人”“人と自然”“体と心”の三つである」。その一つ“人と自然”のつながりこそが旅である。自然の中に入ると気持ちがホッとして副交感神経が刺激されてリンパ球が増え、生きる力が増してくる。
さあ、清和のみなさんも、自分に出会える旅を企ててみては…。講演会でどんな話しをされるのか、今から楽しみです。