本のある風景

2020.02.14

No.21 浜なつこ著「そんなアジアに騙されて」

児童文学作家上條さなえさんは『そんなアジアに騙されて』(浜なつこ著)を読んで衝撃を受けたという。このルポルタージュに紹介されている人身売買のことである。

東南アジアの国にはわずか四歳や五歳で売春を強いられている子どもがいる。それも一人や二人ではない。貧しさの中で売られていく子どもたち。上條さんはそれを読んだ日、一晩眠れなかったそうだ。

そして、日本という国に生まれた幸せを感じてほしいと自著のはしがきで訴えている。「日本の子どもたちは戦火の中を逃げ回る必要もなく、貧しいがゆえに売春宿に売られていくこともなく、ストリートチルドレンのように物乞いをしなくても生活できるのです」

今、この地球上で何が起きているのか。ユニセフの統計によると毎年、世界で約一億数千万人の新生児が生まれているが、そのうちの一千万人以上が五歳の誕生日を迎えることなく死んでいる。予防接種が受けられずに感染症にかかったり、食料不足による栄養失調が原因だのだ。

開発途上国では新生児100人のうち30人は五歳未満で栄養不良となり、26人は予防接種を受けることができない。19人は安全な飲み水が飲めず、40人がトイレを使うことができないでいる。貧困がこれほど子どもたちを苦しめているというのに子どもの人身売買も依然としてあるようだ。

予防策として孤児の養子縁組を禁止した国もある。途方に暮れ、泣くこともできないほど悲しみのふちにいる子どもたちが、どんな思いで見知らぬ人の手に引かれて行ったのか。上條さんではないが、考えただけで眠られない。

理事長 富吉賢太郎

2020.02.14

 


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