本のある風景

2020.05.01

No.26 中原中也・詩集「在りし日の歌」

「おもへば今年の五月には おまへを抱いて動物園 象を見せても猫(にゃあ)といひ 鳥を見せても猫(にゃあ)だった」(中原中也『在りし日の歌』新潮社)

「こどもの日」のある5月だから、こんな一冊はどうだろう!

今から80年前の「こどもの日」に、中原中也が2歳になったばかりの長男文也を動物園に連れて行った時のことを回想している詩である。幼いわが子を連れて動物園へ。子どもが知っている動物といえば家で飼っている猫ぐらい。だから大きな象を見ても「にゃあ」と言い、鳥を見ても「にゃあ」なのだ。そういうわが子がいとおしくてたまらない。

だが、中也はその年の11月、長男を亡くした。愛するわが子の急死に衝撃を受け体調を崩してしまうほどだった。中也は、その喪失感をどうしてよいかわからない。「また来ん春… また来ん春と人はいふ しかし私は辛いのだ 春が来たって何になる あの子が帰って来るぢやない」と打ちのめされた

ことほどに子どもは親の希望であり、願いである。わが子の幸せを願わない親はいない。そのことを子どもたちも知ってもらいたいと思う。そうすれば、自制できるからだ。

5月の「こどもの日」は、端午の節句として、もともと尚武を重んじる武家社会で始まった習わしらしいが、今は男女すべての子どもたちの健やかな成長を祈る日である。親は子を思い、子どもは親を思う日でもある。

子どもたちから感動を奪ってはいけない。純粋な子どもたちの笑顔こそ国の未来である。

理事長 富吉賢太郎

2020.05.01

 


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