清和の窓から
理事長コラム「清和の窓から」106 〝食〟から国際理解へ
〝食〟から国際理解へ
英国のチャールズ国王が皇太子時代、世界の国々を訪問された時、どうにも食べられなかったものが二つあったそうです。ひとつは、サウジアラビアでは最高の賓客に出されるという羊の目玉。そして、もうひとつは日本のイカ刺し。
「ええっ!」。イカの生き作りで全国区となった唐津・呼子の人ならずとも、大方の日本人は「あんなうまいものを、ウソっ!」と信じられないでしょう。しかし、日本人にとって、この上なく美味なイカの刺し身も、イギリス人にはあっさりと“ゲテモノ”にされてしまうこともあるということを知っておくのも、ひとつの教養だと思ってください。
事ほど左様に、世界は広い。メキシコではグサノという芋虫・毛虫が珍重され、その尿を乾かして作った塩をなめながらテキーラを飲んで至福の時を過ごすという。サウジでは羊の目玉どころか、その脳みそを生で食べる習慣すらあるそうです。あの強烈な臭みがたまらない日本のクサヤだって苦手な人には立派な“ゲテモノ”であって、実は私もクサヤだけは口に出来ない。
今では高級食材になってなかなか食べることが出来ないが、日本人のクジラ肉食についても今なお非難が絶えない。世界では「クジラを食べるなんて理解できない」というのである。
しかし、食は立派なその国の文化です。「文化」にはその当事者にしか理解できないものもあるかもしれない。しかし、力ずくで「異文化を理解しろ」というのではなく、お互いに「理解できないということを理解」することが大切ですね。そうすることから心は開かれると思います。
日本の天皇・皇后が皇太子時代、ご夫妻で初めて中東を訪問。サウジアラビアで出された、その羊の目玉を、当時の妃殿下雅子さまはにっこりほほ笑んで、銀のスプーンですくって食べられたというエピソードを、ある雑誌にあった「雅子さまの国際度」というエッセーで読んだことがあります。さすが、優秀な外交官として活躍された経験から、ちゃんとサウジの文化を理解し、礼儀を心得ておられたのですね。
これから国際社会を生きて行く皆さんには、「〝食〟は人の教養、知性、国際度も測る」ということを知っていてもらいたいですね。
理事長 富吉賢太郎