清和の窓から
2022.08.03
No.62 夏休みは〝心磨き〟を
「銭湯に五常の道あり」。若い人たちには、銭湯など死語に等しいかもしれないが、江戸後期の滑稽本の作者として知られる式亭三馬(1776~1822年)の『浮世風呂』にそうある。
「五常」とは人として常に守るべき五つの道徳。すなわち仁・義・礼・智・信。「仁」は慈しみや思いやり。「義」はものごとの理にかなった人としての行い。「礼」は社会秩序を保つための規範。「智」は是非・善悪をわきまえた判断力。「信」は“まこと(真・誠)”と言っていいか。
「賢・愚・邪・正・貧・福・貴・賤。湯を浴びんとて裸形(はだか)になるは、天地自然の道理。釈迦も孔子も、おさんも権助も、産まれたままの容(すがた)にて、さらりと無欲の形なり。湯を以って身を温め、垢(あか)を落とし、病を治し、くたびれを休むるたぐひ即(すなわ)ち仁なり」(浮世風呂)
銭湯は江戸庶民の社交場であり、教育の場、子どもたちの心をはぐくむ場でもあった。湯を浴びながら大人たちが子どもに集団の決まりやしつけを身につけさせてきた。もちろん江戸の世にも人の道を踏み外す者もいただろうが、風呂の床板を磨くように人の心も磨いたのである。
以前、伊万里市に来られた時、一緒にお酒を飲んだことのある森隆夫・お茶の水女子大名誉教授は「道徳は法の究極にあるもの。守るべき法律の根底にある道徳は、毎日飲む水のように人の日常になくてはならぬもの」だと言われたが、確かにそう思う。
清和の皆さんは、日常の中で〝礼と時〟を守り、常に思いやりやりの心をもって友達や先生、もちろん親兄弟姉妹、近所の人に対しても変わりない接し方をしていると信じています。夏休みは鍛錬の時でもあります。自分なりの〝心磨き〟を意識した日々を過ごしてください。
理事長 富吉賢太郎