清和の窓から

2022.10.20

No. 67 芸術鑑賞「あの夏の絵」

 

今年の芸術鑑賞はいかがでしたか。

世界で唯一の被爆国・日本。被爆体験を語り継ぐことの尊さを教えてくれた舞台演劇「あの夏の絵」。これは、広島原爆の被爆体験者の話をもとに、広島・基町の高校生たちが半年以上かけて描き上げた「原爆の絵」の制作実話を再現した演劇です。

実際には、これまで作品は150点以上が完成。佐賀でも、かつて県庁ホールや佐賀市立図書館、鹿島市のエイブル、唐津市近代図書館などで展示された事があるので鑑賞した人もいるかもしれませんね。さすがに実話をもとにした演劇は素晴らしいものでした。同時に私が感心したのは皆さんの鑑賞態度です。2時間を超える演劇を静かに、じっと見つめる姿に感動しました。というのは、以前、演劇とは違いますが、大阪から長崎に修学旅行に来ていた中学生の一部が、長崎の有名な被爆語り部に暴言を吐いて、大きな問題になったことを知っているからです。

今日の皆さんの鑑賞態度、ひいき目でなく本当に素晴らしかった。だから、皆さんには無縁のことかもしれませんが、あえて、一生懸命、頑張っている人を冷やかす、くさす、ヤジを飛ばす。それが、どんないけないことか、人の心を傷つけるか、知ってほしいと思って、少し紹介したいと思います。

それは、こんな出来事です。

元教師で長崎の被爆体験者だった渡辺司さんは退職後、原爆の悲惨さを語り継ぐ語り部として一人芝居の講演活動を続けておられたのです。そして、その舞台は当時、全国各地から長崎へ来る修学旅行の一つのハイライト。渡辺さんは子どもたちを前に、懸命に一人芝居。戦争を知らない子どもたちが渡辺さんの一言一言、大小の動きに聞き入る、見入る。そこに、ある日、大阪からやって来た中学生たちが、あろうことか、舞台の渡辺さんにアメ玉を投げつけ、暴言を浴びせ続けたのです。

「ジジイ、早く終われ!」「この、へたくそ!」「死にそこない!」

中学生たちの暴言に耐え、渡辺さんは自らの体験をもとに命の大切さ、戦争の愚かさを伝える朗読劇「命ありて」を演じ終えたのですが、後日、この事件が明るみに出て、その学校の校長、市の教育長も大阪から長崎の渡辺さんを訪ね、謝ったのです。心ない言葉で人の心を傷つけることがいかにいけないことか。改めて教えてくれた事件だったのですが、あの時の中学生たちは今ごろどんな大人になって、どうしているだろうと思う時があります。

実は、渡辺さんの初演から170回目の記念すべき舞台が佐賀市であった時、今は亡き渡辺さんの一人舞台を見たことがあります。上演90分。妻と友人のナレーションに合わせ、70歳にならんとする渡辺さんの鬼気迫る熱演に圧倒されました。この舞台は私の大切な思い出の一つですが、同じく今年の芸術鑑賞、久しぶりに渡辺さんを思い出したのと、皆さんの鑑賞態度に本当にうれしくなりました。さすが、清和の生徒たち! 誇らしく思います。

 

理事長 富吉賢太郎


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