清和の窓から

2023.03.03

No.72 校庭は「梅」から「桜へ」

校庭の紅梅、白梅が見事に咲き、高校卒業生たちを見送りましたが、桜もつぼみを膨らませ、今か今かと新入学生たちを待っているようです。桜にちなんだ話しはいっぱいあるようですが、こんな話はどうでしょう。

 

ある時、といっても今から1300年ぐらい前のお話。天智天皇が内大臣の藤原鎌足を呼んでこう言った。「春山の万花の艶(におい)と秋山の千葉の彩(いろどり)、どちらが優れているか皆で話し合ってみよ!」

今で言えば「春組」と「秋組」に分かれてのディベートみたいなものですが、これがもとで「春秋の争い」という言葉ができたらしいのです。いやいや、豊かな四季を持つ日本ゆえのぜいたくな競い合いですね。四季が巡るのは決して日本だけのことではなく、北半球の温帯地方であればどこも四季があるのに。でも、俳句のように季語を詠み込むことを必須条件とする文芸形式を考え出すなど、四季を特別に尊ぶ日本人の感性、国民性はたいしたものです。

さて、桜の開花予想は1951年、関東地方で始まったそうです。戦争の傷跡もまだ残る中、人はキラキラ明るいこの花を待ち焦がれたのでしょう。冬の眠りから目覚めた花芽は気温の上昇とともに膨らんでいく。目覚めからの積算温度で開花日を予想するが、日平均気温15度を1日分として23日分の成長で開花となるそうです。

桜は日本人にとって特別な花のようです。短歌の世界では「梅にはかなわない」という人もいますが、「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」(在原業平)「見渡せば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも」(作者不詳)のように古来、万葉集や古今集など詩歌によく歌われています。

また、「散るという飛翔のかたち花びらはふと微笑んで枝を離れる」(俵万智)と、古人だけでなく現代でも桜は人の心をとりこにしています。俳人黒田杏子さんは、30歳の時から28年かけて各地の桜を訪ね、句を詠み続けるという桜花巡礼を成し遂げた人。旅の先々で桜にかかわる季語を写経のように書き写したそうです。「朝桜」「夕桜」「夜桜」を縦の時間の流れとすれば、「初桜」「花三分」「花過ぎ」「葉桜」などは横の時の移ろいになる。また「花冷え」「花曇り」「桜人」などの季語は優雅で風情あふれる宝石のような日本語だと思いませんか。

間もなく校庭の桜も開花するでしょう。桜のつぼみのエネルギーをもらって、新学年への期待をふくらませましょう。

理事長 富吉賢太郎


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