本のある風景

2020.12.18

No.35 城山三郎・著 「黄金の日々」

太閤秀吉に従うか、逆らうか。堺の大商人の跡取りで高名な茶人であった千利休は、後者を選んで自ら命を絶った。そして、やはり豪商であった呂宋助左衛門も同じ選択を迫られたが、助左衛門が選んだのは、そのいずれでもなかった・・・。

助左衛門は、その当時の誰もが思いもつかなかったこと、日本を脱出してフィリピンへ渡ることを選んだ。城山三郎著『黄金の日日』のモデルである助左衛門は、海の向こうの新天地で巨万の富を得て、まさに〝黄金の日日〟を送るのである。

城山さんはこの本でもそうだが、エッセーなどで助左衛門が選んだ道を「第三の道」と呼び、何事にも必ず「第三の道」があることを教えている。二者択一ではなく、もう一つの道。予想だにしない発想の転換。弱みを逆手にとって本来の目的を果たす方法を考えてみては-ということ。

例えば、美しい景観づくりのための景観条例がある奈良県は、条例づくりのために、ます「後世に残したくない景観」の募集から始めたという。普通なら「後世に残したい景観募集」と考えるのが順当だが、古都のイメージを壊してしまっている派手な色の建物やごみが浮く河川など見苦しい場所、不快と感じる景観写真を募って、逆に景観保全を訴えたのである。

なるほど、「奈良にはこんなきれいな場所がありますよ」と言うより、目を覆うような汚い場所を拾い出し、「これ、どう思いますか」と問いかけてみる。その〝負の部分〟を分析すれば景観保全のための新たな施策が生まれてきたというわけだ。

誰でも、焦らずゆっくり深呼吸すれば「第三の道」があることに気がつくことがある。呂宗助左衛門の選択は、私たちにも「AかBか、だけではなく、Cもあるかもしれない」ということを教えている。そう、あなたにも「第三の道」が・・・。

理事長 富吉賢太郎

2020.12.18

 


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