本のある風景
No.39 「からつ塾」(からつ塾運営委員会・編著)
「唐津くんち」に代表されるように、佐賀にあって独自の文化を今に継承している唐津に、類い希なすごい民間塾「からつ塾」がある。
「からつ塾」は、江戸時代各地にあった私塾の現代版と言ってもいいが、2004年1月、立ち上げた有志たちは「学問したい人たちのために開かれた場。あくまでも自前で、この塾が目指すのは、身近な私たち個人の学びであり、知の共有の新しい在り方、教育システムの新たな構築を世に問うて見たい」といい、ほとんど無料奉仕で支えている。
本書は、そんな〝学びの場〟がどうして誕生し、育ってきたか、発足から今日までを詳細にたどっている。
「からつ塾」は「大学レベルの講義の提供」を旨として、人と人を学問という糸で結び合わせようという試みであるが、誰もが「こうした試みが、どれほど全国に存在するのか、恐らく他にはないだろう」と言う。それは、これまでの多彩な講師陣、講義プログラムを見てすぐ実感できる。
ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英・京大名誉教授、アニマルセラピーの第一人者で東大元副学長林良博教授、宇宙物理学の佐治晴夫・鈴鹿国際大学学長、的川泰宣・JAXA名誉教授。また藤井康栄・松本清張記念館館長、前田耕作・アフガニスタン文化研究所所長といった遠来の講師だけでなく、地元から碇宏八郎・「からつ塾」塾長、山田洋・松浦史談会代表のほか、運営委員である大嶋仁・福岡大教授や稲葉継雄・九大大学院教授らが、塾に共感し、意気燃え教壇に立っている。
佐賀の唐津という日本列島の西端の小さな町で起こった「からつ塾」。今も続く、学びたい人たちのための奇特な勉強の場があることを知ってもらい、皆さんの学びの刺激になればと思っている。
巻末の「からつ塾講義記録一覧」を開いたら、それこそ不肖私も3回ほど講義を受け持っていた。今、思えば「恐いもの知らず」とはいえ、何をどう伝えたか、忘れてしまったが、恐らく運営主旨に賛同、ただ応援の一心で汗をふきふき教壇に立ったに違いない。
理事長 富吉賢太郎
2021.04.09