本のある風景
2020.11.09
No.33 山本有三「路傍の石」
家が貧しいゆえに中学進学をあきらめ、奉公に出る主人公愛川吾一少年が悩みながら成長していく物語。三十年、四十年前の中学生や高校生だったら誰もが一度は手にした名作。時代が変われば感動の対象も変わるだろうが、今どきの中高生はどうだろうか。ぜひ読んでもらいたい。そして、先生たちも、吾一少年をいつも気にかけ、教え導いた「次野先生」の言葉をかみしめてもらいたい。考えさせるものがいっぱいある。
自分の境遇に絶望感を抱く吾一を一生懸命に諭すシーンをいくつか引いてみよう。
「愛川、人生は死ぬことじゃない。生きることだ。たったひとりしかいない自分を、たった一度しかない一生を、本当に生かさなかったら、人間、生まれてきたかいがないじゃないか。わかったか、愛川」
「吾一というのはね、われひとりなり。われはこの世にひとりしかいないという意味だ。世界に、何億の人間がいるかもしれないが、おまえというものは、いいかい、愛川。愛川吾一というものは、世界中に、たったひとりしかいないんだ。そのたったひとりしかいないものが、汽車のやってくる鉄橋にぶらさがるなんて、そんなむちゃなことをするって、ないじゃないか」
教え子を諭す先生の語りかけは、こうあってほしいと思う。どんなに荒れている子だって、そうさせる原因がある。教室には抱えた悩みを誰にもいえず、一人で苦しんでいる生徒がいるかもしれない。今、先生たちは教室の中にいるそんな生徒を顔色ひとつ、まなざしひとつで見抜く力量が問われている。
先生と生徒。縁あっての出会いである。目の前にいる生徒をじっと見つめて頑張ること、誰とでも仲良くすること、生きることの大事さを語ってもらいたい。
理事長 富吉賢太郎
2020.11.09