本のある風景
2021.06.14
No.41 河野 泰弘・著「視界良好」(北大路書房)
人間が持つ五つの感覚。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。人はこの五感を駆使してモノを理解していく。では、生まれた時から目の見えない人はどうやって物の色や形を理解していくのだろうか。
先天性全盲の河野泰弘さんは「生まれてから今まで直接目でモノを見たことはない」というが、「手で触れ、耳で聞き、鼻で香りをかぐ。それが私にとって“モノを見ている”ことだ」と言う。河野さんは五歳のころには点字とひらがな、カタカナを覚え、小、中、高校は普通学校で学んだ。
さらに中央大学で法律と心理学を勉強。卒業後は東京都盲ろう者向けの通訳・介助者として働いた。河野さんの『視界良好―先天性全盲の私が生活している世界』には「目は見えないけどモノが見える」ということはどういうことかが、さらさらとつづられている。
子どものころ色をイメージするために家族や友人にいろいろ尋ね、少しずつ色に対する知識を深めていった。赤はリンゴや火や夕焼けの色。青は海や空、黄はバナナという具合に一つの色と代表的なものの名前とセットで覚えた。そうしたら同じ赤でも朱と紅の違いも分かるようになったそうだ。
空模様は嗅覚で分かるという。雨が降り出す前、河野さんには「雨のにおい」がする。「あれっ」と思っているとやっぱり雨がぱらぱら落ちてくる。コップに水を注ぐには音で判断する。初め「ドボドボ」と低い音。それが少し高い音に変わって、それから「カポカポ」になると八分目ぐらい。ここで止めるのだ。
河野さんの鋭い感覚がもたらす想像力のすごさ。こんな人を前にすると、視覚があるのに私たちはちゃんとモノを見ているだろうか、と思ってしまう。
さあ、みんなも頑張ろう!
理事長 富吉賢太郎
2021.06.14