本のある風景

2022.10.07

No.50 松永伍一・著「金の人生 銀の人生」

進路指導部の田代先生が定期的に出してくれている「思索の素」。これは先生が日ごろ読んでいる新聞から、気になった記事を選んで参考資料としてまとめたもの。皆さん、読んでいますか!。これを見ていると、新聞には政治、経済、社会、文化、スポーツ、芸能などなど、いろんな話題が載っているんだなあと、改めてそう思います。

日本語が日々乱れていくことを憂えていた作家で詩人の松永伍一さん。『金の人生 銀の人生』で、「このままの状態が続くとすれば、言語によって培われた民族の感性や思考方法が根こそぎ崩れてしまいそうだ」と語っているが、この本では新聞についても語っている。

社会の出来事だけを知るにはテレビで事足りるという松永さんが、なぜ新聞を読むのか。「自分の関心事について簡潔に自分の意見をまとめる訓練のために読む」のだそうだ。思想は言葉の裏付けなしには形成されない―というのが持論でもあり、お隣の福岡・大木町出身の偉大な作家、松永さんにとって、そのためには新聞が一番らしい。

新聞の読み方はいろいろある。1面からずっと丁寧に読む人もあれば、興味があるところだけ目を通す人もいる。全部の記事を素読して、それを頭に入れ会議の話題に備えようとする人もいるだろう。中高生なら、ひょっとしてテストの問題にと思うかも知れないが、読み方は人それぞれであっていい。

今は故人となった松永さんは毎朝、配達されたばかりの新聞をベッドで読んだそうだ。「まず、1面全体を読まないで、ながめる。一番大きな記事を目に入れつつ、1面の下まで全部目配りする。それから2面をめくって、タイトルだけを拾い読み、そのあともう一度1面にもどって、さて自分の関心事は…」となる。

活字離れのネット時代、リアルな日常の会話も駆逐され、心に響いてくる言葉と無縁になりつつある昨今、松永さんが至福の時と感じた〝新聞のある、とっておきの朝〟を垣間見ると、充実した一日の始まりを感じてならないが、皆さんはどうだろうか!

自慢話になって気が引けるが、私が新聞社時代に書いたコラムが大学や高校の入試問題になったものがいくつもあります。だから新聞を読みましょうと言うのではありませんが、田代先生の新聞切り抜き帳「思索の素」には、今、知っておきたい話題が的確に切り取られています。読まないのはもったいない。眺めるだけでも活字は脳の刺激になるそうですよ!

理事長 富吉賢太郎


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