清和の窓から
No.80 「一緒に生きていこうや・・・」
丹波篠山の豊かな自然の中で育った「河合6兄弟」。6人すべてが医療、法学、工学、心理学などそれぞれの分野の第一人者として知られるが、なじみ深いのは三男の雅雄さんと五男隼雄さんではなかろうか。2人とも既に故人となられたが、日本モンキーセンター所長だった雅雄さんが“サル学者”なら、臨床心理学者で心理療法家として知られた隼雄さんは“ヒト学者”と言っていいだろう。
人の生き方やありようを懸命に研究していた隼雄さん。生前、ある講演会で子どもの不登校に悩む父親から質問を受けたという。「ボタン一つで人間が月まで行って帰って来られる時代なのに、息子を学校に行かせるボタンはないのでしょうか…?」。
せっぱ詰まった、悩めるお父さんの叫びが聞こえてくるようだが、隼雄さんは「科学技術は操作する側とされる側に関係がないときのみ有効で、『親子』という人間関係があるところでは、それは成り立ちません」としか答えられなかったことを、後にあるエッセーで吐露していた。つまり、人と人、たとえ親子といえど、人間関係というのは極めて繊細、かつ微妙、複雑。科学技術で解決できるほど単純なものではないということだろうが、隼雄さんは「堅苦しく考えないで、今は“ともかく一緒に生きていこうや”といったたおやかな感情を親子で共有できるようになってください」とフォローの言葉も付け加えた。
一言ではとても片付かない人間関係については、例えば、せっかく就職しても同僚や上司とうまくやっていけないという理由ですぐ退社してしまう若者が多いという調査結果をみて、「就職は一にも二にも人間関係の不条理に耐えることだ。世の中とはそういうものだと学ぶべし」という気骨の作家城山三郎の激しい言葉もあるように、改めて人と人との関係の難しさを思い知らされるようです。
だが、しかし、ここは“ヒト学者”の「ともかく一緒に生きていこうや」という言葉をかみしめたい。そう、親子だけでなく、友達同士も、先生と生徒でも、とにかく「一緒に生きていこうや!」。この気持ちがあれば、前が見えてくるかもしれない。そして、人と人とのもつれたヒモをほどいて結んでくれるかもしれませんよ。
もうすぐ二学期が始まります。準備は大丈夫ですか!
理事長 富吉賢太郎