清和の窓から
No. 82 「よだかの星」
「よだかは、じつにみにくい鳥です。顔はところどころ、みそをつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。ほかの鳥は、もうよだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうというぐあいでした」
「よだかの星」は誰もが知っている宮沢賢治の童話です。「本のある風景」として取り上げてもよかったのですが、ここで紹介したのは、講談社が発行した『宮沢賢治どうわえほん8 よだかの星』に、賢治の魂そのままのすごい絵を描いている伊勢英子さんが今度の土曜日(10月7日)、伊万里市黒川町に来られ、いろいろお話を聞く機会があるからです。
この童話は、よってたかって、みんなからのけ者にされる孤独なよだかを例えにした、人間疎外の悲しい物語と言ってもいいでしょう。
よだかは、顔や姿、鳴き声が少し違うというだけで、他のあらゆる鳥たちからバカにされる。それは生まれつきだから、どうしようもなく、よだかには何の罪もないのに、「あっちへ行け!」といじめられるのです。だから、よだかは弟のカワセミに別れを告げて、太陽を目指して飛び立つのです。太陽に焼かれれば、みにくい姿でも、小さな光を出せると思ったからですが、太陽は相手にしてくれません。「お前は夜の星のところへ行け!」
よだかは泣きながら、オリオンや大熊星などいろんな星たちに、「わたしをあなたのところに・・」と頼むのですが、そこでも受け入れてもらえません。どこにも居場所を見いだせなかったよだか。絶望して、どこまでもどこまでも真っ直ぐに空へのぼっていくうち、意識がなくなって、いつしか、よだかは青い美しい光を発する星になるのです。
伊勢さんが描いたこの童話の絵。どのシーンも胸を打つ迫力です。恐ろしい光景、哀切に満ちたよだかの姿。また、最期に天の星となったよだかの気高さ・・・。
実は、伊勢さんは、私のすきなジャーナリストでもあり、作家の柳田邦男さんのパートナーです。柳田さんの息子さんは、子どものころのいじめが原因で、いつしか精神を病まれ、25歳の若さで自ら命を絶たれたのです。柳田さんは、よだかに自分の息子さんを重ねられたのか、息子さん亡き後、苦しみながら息子さんを追想し書き上げた『犠牲 わが息子・脳死の11日』の後書きに、「よだかの星」のことと伊勢さんに本の装丁を依頼した気持ちを綴っておられます。
「よだかの星」で賢治が言いたかったこと。そして柳田さんや伊勢さんの気持ちを、少しでも分かち合えればと思っています。
理事長 富吉賢太郎